京都府ツキノワグマ 捕獲強化、狩猟解禁には慎重であるべき      (2017年3月20日)

京都府では、絶滅寸前種のツキノワグマの生息頭数が回復し、目撃件数が毎年1000件以上となっているといったことから、生活被害や人身事故を防止するため、平成29年4月1日から平成34年3月31日までの期間、ツキノワグマについて、下記のように保護管理を進めようとしています。


【第一種特定鳥獣保護管理計画 ツキノワグマ(中間案)概要】(期間:平成29年4月1日~平成34年3月31日)

 

・推定生息頭数
丹波個体群 平成23年度 約200頭、平成27年度 約220頭
丹後個体群 平成23年度 約300頭、平成27年度 約720頭

 

●捕獲上限数
丹波個体群 8%(16頭)→8%(17頭)
丹後個体群 8%(56頭)→12%(86頭)
※捕獲上限数を下回った場合は、残りの捕獲枠を翌年度に限り持ち越すことができる。
年度内に上限数を超えると予測される場合は、専門家の意見を聴取し、被害対策の強化や捕獲上限数を検討する。

 

●予察捕獲 集落等に出て来ることによる生活被害の増加に伴い、予察捕獲を実施
※人家、学校などの公共施設周辺等で被害が予測される場合は、事前に捕獲許可を認める。

 

●狩猟化の検討
生息数が800頭を超えた場合には、京都府レッドデータブックの改訂時に狩猟化による管理を検討

 

※2017年3月13日時点では、京都府ホームページ上では計画案は掲載されていません。上記の内容は2017年1月上旬までのパブリックコメント募集期間中にホームページ上に掲載されていた資料をまとめたものです。

 

関連URL:京都新聞記事 「絶滅寸前種に指定ですが…ツキノワグマ狩猟解禁検討 京都」(2017.3.2)


生息頭数が回復してきたとされていることについて、地元の住民の方々や、行政関係者、自然保護団体、研究者の方々に敬意を表します。
一方でツキノワツキノワグマの捕獲強化、狩猟解禁には慎重であるべきだと考えます。


【懸念すること】
ツキノワグマは大型獣で豊かな森の象徴ですが、九州では絶滅し、四国でも絶滅寸前となっています。ツキノワグマは現在、府レッドデータブックで絶滅寸前種と規定され、狩猟は認められていません。環境省によると、クマは個体数が800頭を下回ると、その地域で絶滅の危険性があるとされています。現在の府内の推定生息頭数は丹後地域で720頭、丹波地域で220頭とされており、いずれも800頭未満です。府は丹後地域と連続する生息域がある兵庫県と、個体数を合算する方向で協議を進めており、800頭を超えた場合は、府レッドデータブックの区分変更や狩猟解禁が行われる予定です。

 

ツキノワグマは一般的に隔年で繁殖し1、2頭を出産しますが、母グマの秋の栄養状況が悪ければ流産します。シカやイノシシに比べ、繁殖力は弱く、捕獲強化により行き過ぎた捕獲に繋がらないかどうか懸念されます。

 

そもそも野生動物の正確な生息頭数を出すことはできませんが、今回の推定生息頭数が、これまでの推定手法に加え、一説には数が多めに算出される可能性が指摘されているhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110009839834(日本福祉大学経済学部 山上俊彦氏)階層ベイズ法が用いられていることにも不安を覚えます。

 

クマが集落まで下りて来ている地域にお住いの方々は命の危険と隣り合わせで、大変なご苦労をされています。京都府によると、誘因物別の情報数(平成27年度)は、480件中、カキが394件を占めます。集落周辺のカキなどの果物の早期の収穫や樹木へのトタン巻き、電気柵等の設置などを徹底することが必要です。

 

またクマの生息環境として、餌となる堅果類などの実をつける、広大な広葉樹林が重要です。山間部では、スギやヒノキの人工林化と林業不振による手入れ不足、スキー場やゴルフ場の建設、道路等による生息域の分断、ナラ枯れなどにより、クマが安心して棲める生息環境ではなくなっています。

 

集落周辺の里山を徹底して管理し、丘陵部や奥山ではクマが安心して棲めるような自然に近い森を復元することなしに、根本的な人とクマとの棲み分けはできないと考えます。


上記のことから、京都府には下記のとおり、要望します。

 

【京都府への要望】
・集落周辺については、カキなどの果物の早期の収穫やトタン巻き、電気柵等の設置、里地里山の管理を徹底する。丘陵部や奥山においては、スギやヒノキの人工林の強度間伐による林床植生の回復、針広混交林化を進め、クマが棲める環境を回復させる。根本的にクマを集落に寄せ付けず、クマが集落から離れた奥山の中で生息できるようにするための対策に最優先で税金を使っていただきたい。


・丹波地域、丹後地域とも十分な推定生息頭数ではないので、捕獲上限数を増やさず、丹波個体群8%(16頭)、丹後個体群8%(56頭)とすること。また、上限数を設定する意味がなくなるので、捕獲上限数を下回った場合は、残りの捕獲枠を翌年度に限り持ち越すことができるというルールを撤廃すること。

 

・丹波地域、丹後地域とも十分な推定生息頭数ではないので、狩猟解禁は平成34年3月末までの保護管理計画期間中は行わないこと。

 

・イノシシやシカ用のくくり罠や箱罠によるツキノワグマの錯誤捕獲が多い(ツキノワグマの有害捕獲 平成24年~27年 112頭に対し、錯誤捕獲は195頭)ため、誘引された動物を確認した上で扉を落とす仕掛けやクマが好まない誘因物の使用等、付近でクマの生息が確認された場合は罠を移動するなど、錯誤防止対策を義務化すると共に、今回検討されている、シカやイノシシの捕獲強化のためのくくり罠の輪の直径(12cm)制限解除は行わないようにすること。


京都府へは下記から意見を送信することができます。皆様からも意見を送っていただけると幸いです。
 <知事へのさわやか提案> http://www.pref.kyoto.jp/teian/index.html


集落に住む方々と、クマとが上手く棲み分けできるようになることを願って止みません。当団体でも、引き続き、人と野生動物との棲み分けを目指し、活動を継続していきます。

  クマが棲む落葉広葉樹の森(2007.7.29氷ノ山)

 

           スギの人工林

 

       人工林内 京都市右京区

 

           削られた山